【映画】ニライカナイからの手紙

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 “直球勝負”の佳作。

 この映画、ストーリーの複雑さとか、意外性とか、ひねりなどを求める人にはお薦めできない。って、いきなり「お薦めできない」って書いてどうする?<自分(苦笑)

 多分、その部分でこの映画の評価は二分される。ネットでレビューを読むと評価がかなり両極端な気がする。この映画に作為を感じる人はきっといつも作為的な映画に毒されているんでしょうねぇ...。

 私はと言えば、この映画のDVDをしっかり買ってしまった。蒼井優の記念すべき単独主演作品としても手元にずっと置いておきたい1本だ。映画館で観ていたらきっと蒼井優に萌え死んだに違いない(ぉぃぉぃ

 野球で言えば「ど真ん中の直球勝負」なストーリー。熊澤監督は配球バレバレでの勝負を指示している。もちろん、蒼井優という邦画界期待のエースが、初先発のマウンドに立っているからだ。

 その蒼井優の演技は「花とアリス」でも自然体だったが、この映画でも自然体。いや、自然体と言って良いものかどうか? 不自然と思えるほどに自然だ。

 まず、DVDのジャケットやメニュー等で使われている写真がパッと見「本当に蒼井優か?」と思うくらい衝撃的。決してノーメイクではないのだが、沢尻エリカや長澤まさみ、特に綾瀬はるか(笑)辺りだったら絶対NGだろう。蒼井優はもともと綺麗にとってもらおうという意識もないらしい。なんとも潔い。

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普通の高校生(でも可愛い)


 風希が島を離れるまでのシーンも実に自然体で、朝食、通学、学校生活、放課後と竹富島の高校生がどんな日常を送っているかが違和感なく伝わってくる。田舎の普通の娘を演じさせたら蒼井優の右に出る者はいないだろう。

 それでも蒼井優はチームプレイに徹している。彼女の一挙一動に目を奪われるが、決してスタンドプレイではない。換言すると、映画の中に“女優・蒼井優”は存在していない。映画の中で息づいているのは竹富島に住む安里風希という女の子だ。

 また、この映画は出演する“プロの俳優”がかなり少ない。蒼井優(安里風希)、平良進(安里尚栄:風希の祖父)、南果歩(安里昌美:風希の母親)、金井勇太(海司:風希の幼馴染)、かわい瞳(鳩山レイナ)、比嘉愛未(美咲:風希の幼馴染)、中村愛美、斎藤歩、前田吟。それに織田哲郎がカメオ出演しているぐらい。他に多数出てくる出演者はほとんどが演劇未経験者。子役は沖縄県内でオーディションを実施して起用。高校の先生や生徒、竹富島の島民は実際の先生であり生徒であり島民だ。竹富島郵便局はセットだが、郵便局員は実際の郵便局員。だから子供たちのシーンや、島民達のシーンはかなりの学芸会なのだが、監督はそれで良しとしてしまっている。

 制作費がなかったと言えばそれまでかも知れない。だが「観客に実際の竹富島の生活感を感じてもらおう」という意図があったのではないか?

 そんな中にも溶け込んでしまう蒼井優はすごい。「どんど晴れ」の比嘉愛未(これが女優デビュー作)の方が沖縄出身にもかかわらず浮いて見えてしまう。 ― 彼女は蒼井優のファンらしい。がんばれ、愛美ちゃん。

 というわけで、名だたる名優が出ているわけでもない。ストーリーにも捻りはない。コミカルなシーンもほとんどない。じゃあ竹富島の美しい自然を徹底的に映しているかというと、映画の中盤は東京で話が進むし、竹富島の映像も曇天でのシーンが多い。

 それでも、この映画には「うつぐみの心」を持った竹富島の島民の気持ちがぎっしり詰まっている。その代表としての安里風希の3年間の成長を丁寧に描いた、暖かく切ない物語になっている。

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どうして話を聞いてくれないの?



 以降、いろいろと思ったこと(ネタバレあり)

● 題名からしてネタバレでしょ?
 題名の「ニライカナイ」の意味を知っている人には簡単に結末が予想できてしまう。たとえ知らなくても冒頭で安里昌美(南果歩)が風希へ「ニライカナイ」について説明するシーンでかなりの人が察してしまうだろう。熊澤尚人監督の翌年の作品「虹の女神 Rainbow Song」では、冒頭にいきなり核心部分を提示している。だから「ニライカナイからの手紙」でも積極的に結末を隠すつもりがなかったのだろう。
… この感想は最初冒頭に書いていたのだが、ネタバレなのでここに移した(笑)

● 有り得ない?物語の背景
 ストーリーの大前提である「風希が母と別れて20才になるまでの13年間、母親の消息がわからない」という設定はかなり無理がある。

 安里昌美と安里尚栄は実の父娘と考えるのが自然。昌美は夫が他界した後、実家で生活していたと考えられる。母の消息がまったく漏れ伝えてこないということは父方の親戚は竹富島近辺の人ではないということだろうか?

 余談だが、父の遺影の人は特典ディスクに出てくるので、竹富島の方のようだ。ご愁傷様(違)

 少なくとも父方の祖父母は早くに他界してしまっているのか?
 ただ、昌美を演じる南果歩の八重山方言の下手さ加減(と、待ち合わせ場所に東京を選んだこと)で、実は昌美は他所から来たという推察もできるにはできるが...。

 一方で、尚栄だけでなく島の大人たち全員が昌美の望みを叶えようとしていたはずだ。人口300人程度の小島だけに、島民全員が昌美の希望を叶えようとしない限りこの話は成立しない。海司の両親(映画には出てこない)も海司を通じて風希の動向を尚栄に伝えていたのだろう。だから尚栄は風希が相談に来る前に内容を知っていた。尚栄が寡黙なのは、風希に真実を話せない辛さからだろう。風希が東京に旅立つ日に神様に祈る尚栄の姿が、彼の優しさと風希への深い愛情を現している。肝心の20歳の誕生日に手紙を風希に渡すタイミングも逸してしまうのも彼の辛い気持ちからだ。寡黙で不器用だけど実はとても優しい祖父という役柄を平良進が巧く表現している。

 またまた余談ながら、平良進がメイキングではとても気安いおじいさんだったのでちょっとびっくり。「ちゅらさん」のオバァ役で有名な平良とみとは夫婦だそうだ。

 子供たちも、小学生の美咲が風希を泣かせるエピソードや20歳になった風希が帰省した際の海司の対応で、真実を知らないにしても感づいていたと思われる。

 現実的には有り得ない設定だが、舞台を竹富島にしたことで説得力を持たせたということだろう。って、そんな事を突き詰めて考えるだけ野暮かも?(笑)


● 映画全般を支配する色彩
 いかにも沖縄の離島をイメージするようなコントラストの強い明るい色彩で映されるのは冒頭の昌美と風希が砂浜で戯れるシーンぐらい。後はほとんど曇天下だ。実際に竹富島で撮影した期間が二週間で、メイキングを見ても雨の中で撮影しているシーンがかなり出てくる。蒼井優がメイキングでロケの前後にまったく予備日がないと言ってるのでかなりの強硬日程だったのだろう。

 ただ、風希が東京で写真を撮るシーンを見ていると意図的に映画全体のコントラストを抑えたとも思える部分がある。

 フィルム式のカメラの場合、カメラ雑誌への投稿写真に使うフィルムはリバーサルが主流だ。多くのカメラマンがコダクロームKR64のような比較的感度(ISO)が低く微粒子の外式リバーサルフィルムを使う。ラティチュード(露光の範囲)は狭いが、コントラストの高いはっきりした写真が撮影できるからだ。ところが、風希はずっとネガフィルムを使い続けている。ネガフィルムを使うと、コントラストが低い、柔らかく温かみのある写真が取れるからだろう。

 彼女の写真の作風が風希の性格、あるいは島民全体を象徴している気がするし、そうやって観ていると、映画全体のトーンも双方とも逆光の撮影が多いし、映像と風希の写真がシンクロしている気がする。

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上京した田舎娘


● 沖縄万歳の映画ではない
 風希が「写真の勉強をするために東京に行きたい」というのは「母は東京にいる」という設定と絡ませるための必然と言えるが、19歳の風希に送る手紙の待ち合わせ場所が石神井公園なのは意外だった。
 風希が高校を卒業をしたら東京に出てくるという前提で昌美が手紙が書いたとは思えないし、尚栄も「20歳になるまで島を出ちゃならん!」と常々言っていた。それでも風希をわざわざ東京に呼んだ理由は昌美が大好きな東京の景色を見せたかったからだ。しかも昌美の大好きな石神井公園の桜が開花するのは、風希の誕生日からさらに2ヶ月後になる。
 そして最後のシーンが風希が母親が好きだった桜を撮影する石神井公園のシーンだから、その後彼女が元気に東京で暮らしていることがわかる。

 設定自体はちょっと不自然な気がするが、ラストを沖縄でまとめて終りみたいな「沖縄万歳」映画ではなく、“夢を追うなら時に故郷を捨てる必要もある”というリアリティがある。


● お気に入りのシーン
・東京で迎える19歳の誕生日
 やっと慣れはしたものの、気持ち的にアシスタントの仕事だけで精一杯な風希のところへ海司が訪ねてくる。海司は風希へ母からの手紙を届ける以外にも、想いを告白する目的があったのだが、落ち込んでいる風希を見て励ますだけで帰ってしまう。
 海司としては、風希が色白で女っぽくなったとを褒めて、風希が喜んだら告白のきっかけにしたかったようだが、風希は「あんまり外出てないからね」とまったく海司の“下心”に気づかない。
 このすれ違い具合を金井勇太も巧く演じている。

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仕事に慣れて余裕の表情


・帰島した風希を島民が励ます
 個人的に映画中で一番のシーン。全員で風希にウソを付きながら成長を見守ってきた島民が、20才の誕生日に帰島して真実を知った彼女に次々に届け物を持って励ましにくる。
 以前「ペイ・フォワード 可能の王国」という映画で同じようなシーンを見てあまりの嘘臭さに興ざめしたのとは対照的な感動的なシーンだ。ー 「ペイ・フォワード~」はアカデミー賞俳優2人+天才子役の3人が出ていたのに最後に思いっきりぶち壊してくれた。

 この時の風希の表情がなんとも良い。風希は自宅に帰り着いてから3回泣く。実際のところ、帰島してからの20分間ほとんど涙を流しっぱなしだが、3回とも泣く理由が異なるので、蒼井優もそれぞれ違う表情をしてみせる。2回目に悲しさと嬉しさと感謝が混じったような複雑な表情で涙を流すのがこのシーン。引き合いに出しては悪いが、長澤まさみに辺りではこういう泣き分ける演技はできない。蒼井優の真骨頂と言える演技だ。

・二人の朝食シーン
 映画中、尚栄と風希の朝食シーンは3度出てくる。高校へ行く前の日常の一コマとして、二度目は風希が尚栄の反対を押し切って上京する朝、三度目は風希が帰島した翌朝。この三度目の朝食で二人が抜群の演技を見せてくれる。

 ほとんど泣き明かして突堤のポストの横で朝を迎えた風希が、それでも日課だった朝の道路掃きを終えて尚栄と朝食を食べる。風希は帰島した尚栄から母からの手紙を受け取ってすぐガジュマルの木の下へ行き、朝まで帰宅しなかったので、二人はほとんど会話を交わしていない。そもそも風希は母のことと上京を反対されたことで尚栄に対してわだかまりがあったし、昨日は尚栄の気持ちを察することができずに心ない言葉を投げかけて石神井公園に置き去りにしてしまった。尚栄にもずっと嘘を付き続け、東京できちんと手紙を渡し損ねた負い目がある。
 黙々と朝食をとりながら目でお互いの様子を窺う二人。前2回のパンフォーカス中心の朝食シーンとは異なり、画面は顔のアップ(視線)を中心に二人を追い続ける。そして、尚栄がポツリと「うまい」と言うと、風希がほんの一瞬だけ、ほとんど目だけで微笑む。
 この時の蒼井優の表情が素晴らしい。ほんの一瞬の表情の変化だけでわだかまりが消えていることを現してる。そしてカメラはテーブルの真ん中に置かれたニンニクの漬物のアップに変わり、二人の箸がが交互に漬物をつまむシーンを写す(このニンニク漬けは祖父と娘の絆を象徴するアイテムとして使われている)。

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一瞬見せる表情がいい


 その後、風希が東京に戻った後、突堤のポストを開けた尚栄が風希からの手紙を手にして穏やかに、そしてとても嬉しそうに微笑む。この時の平良進の表情も本当に素晴らしい。


 欲を言うと、南果歩が顔色が良すぎて病人に見えないし、方言も拙いので、あめくみちこのような沖縄県出身の女優に昌美を演じて欲しかった気はする(やっぱり昌美は余所者?)。また、最後の手紙の部分はさすがに長い気がする。

 でも、それが些細な事だと思うくらいの佳作に仕上がっている。素直に、優しく暖かい映像と演技に浸れる映画だ。

共感したレビュー:
裏の窓から眺めてみれば
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ニライカナイからの手紙
ニライカナイからの手紙 [DVD]

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